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堺サン、オレいっつも堺サンちで飯食わせてもらってばっかだから、たまには堺サンにお返ししたいって思うんスけど、今度外に飯食いに行きません? ユーキ農法の野菜とか使った店が東京タワーの近くにできたって聞いたから、堺サン興味あるかなって思って。あ、もう知ってるかもしんないっすけど……やっぱ知ってました? 行ったことあります? じゃあ今度行きましょうよ、オレがオゴりますんで。いやいや、いつものお返しっすから。いいじゃないっスか、ほら、丹サンとかあんまそーいう店って行かなそうだし。いやまあそれはいいとして、一人で行くとかより、絶対オレと行くほうがいいですって。えー、だって飯食うんだったら一人より二人のほうが楽しいじゃないっスか。そう思いません? オレは堺サンとご飯食べるの楽しいっス。 えー、じゃあオレと飯食うのイヤっすか? ……だったらオレすげー悲しい。 ……あーよかった、イヤじゃないんすね、だったらよかったっス、いっつも堺サンがヤだなって思って飯食ってんだったらオレさすがにそういうのやめなきゃって思って。そっすよね、だったらオレと飯食いに行ってもよくないっスか? ……あ、でもホントに堺サンがヤだったらいいんで。 マジっすか! ありがとうございます! もちろん全部オレやりますんで。次の木曜の夜とかどうすか、次の日午後練だけだし。あ、じゃあそれで予約入れますね、ダメだったら来週またってことで。そんじゃ決まったら後でメール入れますんで、いったん切りますね。失礼します。 - - - - - ああ? 飯? あー……大門のほうに最近できた和食のだろ。行ったことはねーよ、何かの雑誌で読んだだけだ。何でお前に奢られなきゃなんねーんだよ、そんな落ちた覚えはねーぞ。そもそも何でお前とわざわざ外で飯食わなきゃなんねーんだよ。何でそこで丹波なんだよ、意味わかんねえ、別に俺一人で行ったっていい話だろ。なんなんだお前のその自信は。楽しいかどうかは相手によるだろ。お前が楽しいかどうかは知らねーよ。 いや、お前な、……嫌じゃねえよ、だからって別に楽しいわけでもねえけど。だからそこまで言ってねえだろ。 ……あーもう、そういう言い方すんじゃねえ、行きゃいいんだろ行きゃ。お前が言ったんだからお前が全部やれよ、予約とか。木曜の夜……は別にねえな、予定。ああ。じゃあな。 - - - - - よく行く居酒屋の個室の中、溜息をつきながら通話終了のボタンを押す俺のトモダチの堺クン。電話の相手はまあ確実にあの世良で、最初は不機嫌に断ろうとしてたくせに結局押し切られたらしい。漏れてくる内容を聞いてた限りじゃ、世良は結構したたかだ。嫌いじゃない相手に嫌いって言えない真面目さは堺のいいところでもあるけど、甘すぎるところでもある。そういうとこを世良はしっかり見抜いてて、堺ん中での今の自分のポジションもキッチリ織りこみ済みで攻めてきてやがる。堺が思ってるほど世良はガキじゃない。ああ見えてそれなりに場数も踏んでるんじゃねえかと思う。しかも多分、年上ばっか引っ掛けてきてるぞアレ。甘え方がこなれすぎだ。 対する堺はどうもガードが甘い。今だって眉間に皺よせてるわりにそこまで嫌そーでもねえ。ちょーっとマズいんじゃねえかな、正直。堺クンこのままだと新しい世界に踏み込んじゃうんじゃねーかな。最初のうちは笑って見てたけど、思ったより世良は頭の回転が速い。しかも若いぶん容赦のない攻め方をしてくる。持ってる武器、一個残らず使ってガンガン攻めてやがる。堺の弱いとこをピンポイントで狙ってくるあたり、最近なりふり構ってねえ。 さすがにオトモダチが危ない領域に足突っ込むのを黙って見てんのもどーかなーと思うので、ちょっと堺には釘刺しといたほうがいいかもしれない。多分堺は常識人過ぎて、禁断の花園で楽しく恋愛してられるタイプじゃねーと思うから、早めに言っといてやんねーと苦しむ気がする。あと、何だか知らねーけどいきなり俺の名前出してきたとこがなんとなく気に入らねーから、おにーさんは堺クンに言っちゃいますよ世良クン。悪く思うなよ。 「へえ、堺クン木曜の夜、世良とデートなんだぁ」 「何がデートだ、ふざけんな」 「えー、デートでしょ、少なくとも世良的には」 「俺は違う」 「どうだかな」 「……どういう意味だよ」 「お前アレじゃん、わかってんだろ、世良のはさ、フツーの後輩の懐き方じゃねえって」 「……」 「その気ないんだったらホントちゃんと言ってやれよ、お前カンペキに気ぃ持たせる感じになってっからな、ソレ。俺が世良でお前のこと狙ってたとして、そういう答え方されたら『ひょっとしてこれイケんじゃねーか』って思うぞ」 「……知るか」 「あのなあ、そうやってごまかし続けてたら痛い目見るからな」 「……」 その風貌でチッ、とか舌打ちすると柄悪い感じになるからやめなさい堺クン。お前気づいてんのに、曖昧な態度とって先延ばしにしすぎなんだよ。 「このまま行ったらお前、絶対どっかで世良に告白されるね。でなきゃ襲われるわ」 「なっ……!」 「そんくらいの状況だって理解しとけよ。フツーに告白で済みゃいいけど、そんな微妙な態度とり続けて、そのうち追いつめられた世良に襲われても知らねーからな俺は」 「……っ」 堺が唇を噛み締めて黙る。ホントにそういうとこまで来てるって、ちゃんと認識させとかないといけない。世良はどうみてもここのところ、すさまじい勢いで攻めてきてる。アレは現状維持とか、後先とかもう考えてねえ。堺の防衛ラインを、力づくで突破しにきてる。そのあたり理解してないと、本当に強行突破されそうだ。 額に手を当てて押し黙る堺を見つめる。多分堺は認めたくない。世良のあの好意が、恋愛の範疇のソレだって気づいててもできる限り認めたくない。それがいつもより深い眉間の皺に現れてる。溜息をつく堺をこれ以上いじめても可哀想なので、軽く言ってやった。 「わかったらとりあえずお前の目の前のさつま揚げを俺にくれ」 「……勝手に食え、馬鹿野郎」 そう言いながら律儀に皿を差し出してくる堺の足を机の下で軽く蹴って、ネギとイカの入った分厚いさつま揚げをかじる。それからすぐ、店員に珍しく焼酎の湯割りを頼んだ堺は多分、飲まないとやってられない気分だったんだろう。難しい顔で焼酎に口をつける同期を見つめながら、俺は残り一切れのだし巻きに手を伸ばしたのだった。 |